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エルメス、

歴史の旅人

これまでにつくられてきたあらゆるオブジェを集め、分類し、保管することで、後世に伝えていく役割を担うのが、エルメスのコンセルヴァトワール。好奇心旺盛、情熱家、お話し好きであるマーク・ストルツは、そのキュレーターとして1837年の創業以来の歴史の一端を垣間見させてくれるのです。

From the Hermès Frères harness and saddlery catalogue, 1912. The caption reads: “Rich harness for a horse”. Archives Hermès. © Hermès 2024

コンセルヴァトワールが考える
“エルメスの時”。

コンセルヴァトワールの役割は、第一に最初期から現代までにつくられたあらゆるオブジェを保存することです。「エルメスの時(Temps Hermès)」とは、エルメスにおける独自の時間の概念のことをいいますが、我々にとっての時間は、忘却であると同時に、物事を生み出すものでもあります。丁寧に生みだされたものはとても長持ちし、残り続けることで古色を帯びます。コンセルヴァトワールで多くのオブジェがそうなっているのは偶然ではありません。

“エルメスの時”
らしいオブジェとは。

私にとってエルメスの時の概念をもっともよく表しているのは、ガーズバッグ(Guard’s Bag)と呼ばれるものです。聞き慣れないかもしれませんが、遥か昔の、公共馬車の従業員のための鞄で、道案内の地図や荷物室の鍵、時計などを入れるためにつくられました。馬車引きが各駅に時間どおりに到着するために、鞄に埋め込まれた時計で、駅間の移動を正しいペースで保つことを可能にしました。

過去と現在の製品の間には、
見えないつながりがある。

仮にエルメスの歴史を1000年と捉えてみれば、時代遅れ、古くさいといった考えはあてはまらないことがお分かりいただけるでしょう。過去は、インスピレーションの泉であり、現在のオブジェの名称やクリエイションのプロセスにつながっています。昔からの革への突き錐、麻糸での縫製など手作業を続けるのは、機械を選ばない消極性ゆえではありません。手は機械では難しい正確さと創造性の自由をもたらすのです。

過去を旅しては、
現在に戻る。

過去はインスピレーションを与えてくれるものであり、常に新鮮な目で訪れるもの。それゆえに、オブジェは我々に情報を伝え、導き、世界のものの見方を広げるのです。コンセルヴァトワールの立ち上げは、ジャン=ルイ・デュマのとった直感的な行動です。彼は私に「コンセルヴァトワールの設立は、ある意味未来への準備という感覚を持っていた」と伝えてくれましたから。

オブジェは物語る。
時間を超える。

エルメスは歴史的な意味においては詩人であり、ものづくりの詩的なアプローチはさまざまな方法で読み取れます。まず、感覚に訴えます。オブジェの造形、手触り、それから機能を、適切でエレガントに扱うことによって、オブジェは自身の物語を語ることになるのです。物語を語り、時間を超えるという能力において、エルメスは独自性をもっています。そして、創造の行為の仮説は明らかです。それは、美しいものをつくることであり、美しければ美しいほど長持ちします!

コンセルヴァトワールという
伝承における関わり方。

コンセルヴァトワールは、エルメスのすべてのメチエを横断する場所であると同時に、収集の場です。探究の場、オブジェに関しての仮説を立てる場所でもあります。我々はオブジェを理解するために、まず見かけのバリエーションの中につながりを見つけようとします。そうして得た仮説的なつながりから出発し、そこに意味を見出し、オブジェ同士を結びつけるものを読み取ります。

お客さまとこの経験を分かち合うことは、我々のもっとも大きな喜びであります。

歴史の正しい伝承。

ある意味、メゾンの歴史こそがオブジェに魂を与えていると言えるでしょう。我々の役割は、クリエイションの裏側を見なければ、埋もれたままになっている別の側面へ訪問者を導くこと、オブジェの少し隠れた局面に照準を当てること。オブジェを理解するためにはそれらを愛してもらわなければなりませんし、逆もまた同じで、愛してもらうためには理解しなければなりません。

From the One Hundred Years, or Some Reflections on the Private Collection of Mr. H*** catalogue, 1928. Archives Hermès. © Hermès 2024

Marc Stoltz

マーク・ストルツ

エルメス・コンセルヴァトワールのキュレーター。学生時代に哲学と行政法を学び、手仕事、特に革細工に情熱を持って過ごす。1989年の夏、1か月間フォーブルの皮革アトリエで見習いとして勤める。それから34年が過ぎ、現在はコンセルヴァトワールのキュレーターを務める。

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