――エルメスとの出会い。
エルメスでは主にカレのデザインのための原画を描いています。エルメスとは、2009年にネクタイのコンペに応募し、特別賞を受賞したのがきっかけで、仕事をさせてもらうようになりました。メンズシルクのディレクターであるクリストフ・ゴワノーが、コンペでの受賞作品をもとに「一緒にスカーフをつくってみないか?」と誘ってくれたんです。その頃の僕はテキスタイルデザイナーとして活動している頃でしたね。しばらくはメンズのスカーフを描いていましたが、2022年頃からはウィメンズも手掛けるようになりました。
――膨らむイマジネーション。
クリストフは、たとえば僕がエルメスで形にするには難しいような突飛なデザインをつくったとしても「いいね、楽しそうだから、もう少し想像を膨らませてみよう」と一緒に面白がってくれるんです。彼はディレクションがうまくて、僕自身もそれにのせられて、どんどんイマジネーションが広がっていって、最終的には自分でもびっくりするような作品ができあがったりするんです。クリストフはもちろんそうですが、エルメスは僕に限らず、一人ひとりとの対話を大切にしていて、常にアーティストの想像力やアイデアをリスペクトしてくれていると思います。
――ドローイングとは?
デザインをはじめるきっかけのようなものだと思います。デザインを考える際に、自分が思い描いたイメージ、アイデア、もしくはそのストーリーなどを形にするのにドローイングを描きはじめます。エルメスであれば、ミュゼにあるアイテムを模写したりとか、思いのまま落書きのように描いたものを、自分で見直して、イマジネーションを広げて、描くべきものを発見します。ドローイングは想像の原点です。すべてはドローイングからはじまっています。想像することそれ自体を、エルメスも僕も大事にしています。
――《シュヴァル・パンク》のはじまり。
エルメスにおける僕のデザインは、ほとんどと言っていいくらいパリのフォーブル・サントノーレ店にあるエミール・エルメス・コレクションが並ぶミュゼ(美術館)にあるアイテムをもとに制作しています。昔は万年筆にインクをつけて手紙を書いたと思うのですが、そのペン先を掃除するブラシに馬の形のものがありました。たてがみの部分がブラシになっているのですが、それがモヒカンに見えるので、「パンクの馬なんてどう?」と提案したのが《シュヴァル・パンク》のはじまりです。クリストフは音楽にも精通していてパンクカルチャーにも詳しく、だったら「背景はタータンチェックにしてみない?」とアイデアをもらったりしながら、一緒につくりあげました。
――「美味しいスルタン」もまたミュゼから。
ナポレオン3世がお気に入りだったスルタンという馬がいました。ナポレオン3世がつくらせたというその馬に似せたアイスクリームの型を、あるときミュゼで見つけました。その話が面白かったので、この型で実際にアイスをつくったらどうなるんだろう?と思いついたアイデアが、《シュキュラン・シュルタン》というビーチタオルのデザインになりました。日本語にすると「美味しいスルタン」です。
――本当に好きなものって何だろう?
エルメスとの仕事をしはじめてからしばらくして壁にぶつかりました。クリストフからは、「大輔らしいものをつくってほしいから」と言われ、自分らしいものって何だろう?と考えた時期がありました。自分のデザイン案を見返すと、エルメスに合わせて、らしいものをつくっているのに気がつきました。じゃあ、自分が本当に好きなものは何だろう?と思い直したときに、大好きなマンガやアニメだったり、そういった日本のカルチャーをミックスして描いたら喜んでもらえ、前に進む事ができました。子どもの頃は、頻繁に引っ越しをするような生活でしたので、転校したときに漫画などの人気キャラの絵がうまいと友だちをつくるきっかけになりやすかったんです。マンガやアニメはコミュニケーションのひとつとして描いていましたが、その頃のドローイングが、今の自分を支えるものとなってくれました。

幼少期を日本、ヨーロッパなどで過ごし、油絵を学ぶ。その後ニューヨークに渡り、パーソンズ・スクール・オブ・デザインで学び、卒業後テキスタイルのデザインスタジオに就職。2006年に日本に帰国、フリーランスデザイナーとして活動。2009年には「Les cravates par Hermès」でデザインイノベーション特別賞を受賞。以来、ハンドペイントとデジタルペイントの両方を用い、エルメスとのコラボレーションを行っている。