動画を見る

      どんな物語を描くのも、
      一枚のドローイングから
      はじまります

      Shinsuke Kawahara

      河原シンスケ

      アーティスト

      80年代からパリと日本を行き来する河原シンスケさん。河原さんといえば、ウサギのモチーフで知られていますが、朱赤のまるで漆のお椀の中のようなパリのアトリエで、ドローイングに込める物語の一片をお聞きしました。

      ――エルメスとの関係性。

      僕は40年以上パリに住んでいて、パリと日本を行き来しています。エルメスとの関係は1994年くらいからで、96年エルメスの年間テーマ「音楽」の年に『エルメスの世界(Le Monde d’Hermès)』春夏号に寄せてイラストレーション『Quatre Saison(四季)』をはじめてエルメスのために描きました。そのときは、5代目のジャン=ルイ・デュマ氏と、小さいテーブルの上で、こういう絵はどう?こういうのはどう?と言い合いながら、描いた覚えがあります。

      ――エルメス・ステュディオ・デッサンとの仕事。ドローイングを描くこと。

      エルメスとの仕事は、まずは自由に「シンスケなにかやりたいことはないの?」と聞かれるので、「これがやりたい!」と僕から言ってはじまります。カレは、見た目やグラフィック(視覚的な表現)だけでなく、アーティストの作品それぞれに表現や世界観があり、歴史的に見ても魅力的です。もちろん彼らとは異なる作品を僕は描いているわけですが、歴史の一部に自分も加わるというのは素敵なことですね。

      エルメスにはユーモアやファンタジーがあるから、たとえば、カレを描くとなれば、その中にどんなストーリーを描くかが大事なこと。ステュディオ・デッサンと一緒に働くときも、まず物語を考え、それから作品に落とし込んで描いていきます。ステュディオ・デッサンは、エルメスのグラフィック・クリエーションを担い、世界中のクリエイターたちから届く作品をもとに、オブジェに用いられるデザインを生み出す部門です。

      2025年春夏《ロデオ・デ・フルーツ》。たとえば、イチゴにイチゴの花、ブドウにブドウの花、リンゴにリンゴの花。桜に桜の花といったように、フルーツと花を、このバンダナではミックスしたくて描きました。

      petit h(プティ アッシュ)ミニコフレ《リンゴ》のためにつくったカップカバー。80年代の頃に母が、エルメスで買い物をしていた小さな革の細工。そういうものを再現できないかなと思い、僕も面白いものをやりたいなと思うようになりましたね。

      petit h(プティ アッシュ)フラワー《カーネーション》のために革の細工で花をつくりました。一本でもいいですし、何本かまとめて贈ってもいいかなと。

      《ローズ イケバナ》。香水でも花でも、手に取った人が嬉しくなる、なにかハッピーになれるということはとても大事なこと。ワクワクする感覚や嬉しいといった感情をもってもらえたらって。

      ――パリのアトリエ、花鳥風月。

      僕のアトリエのテーマは花鳥風月です。 花鳥風月というのは自然に対するリスペクトの言葉であり、大切にしてきた大きなテーマ。壁ごとに、花、鳥、風、月という四面を表現しています。アトリエは小さな空間なので、日本の漆のお椀の中にいるみたいな、朱赤の中に絵があるような心地となります。

      ――ウサギの秘密。

      なぜ、作品にウサギが多いかというと、はじめてパリに来たときのことなのですが、パリ・シャルル・ド・ゴール空港がまだ芝生みたいな滑走路の頃で、私自身もやっぱりまだ若く、ドキドキしながら降りていくわけですが、窓から見たらなにかいっぱい動いていて、なんだろうと思ったら、それがウサギの大群だったんです。誰も知らないパリに着いたけど、ウサギが僕を一番最初にウェルカムしてくれました。そんなウサギが印象に残り、それから描くようになりました。

      ――パリに住む日本人として。

      パリにもう40年ほど住んでいます。これだけ長くいても、ほかの人たちからしたら、シンスケってやっぱり日本人だねと言われることがあります。それは、線の描き方ひとつとっても、書道のように線を引くといったところにあるのかもしれません。それがもしかしたら僕にとっては特徴的なことかもしれないですね。

      ――日本の文化、フランスの伝統。

      銀座メゾンエルメスを訪れた際に驚きがありました。エルメスというブランドには、トラディションとイノベーションが必ずあって、かつユーモアもある。それが銀座メゾンエルメスでは融合されていて、とても素敵だなって。 いつ行っても、いま行っても、新しいなと思います。

      フランスと日本は、ともに歴史をリスペクトしています。ものに対する思い入れでしたり、伝統を重んじます。それでいて、革新もあるというのが、フランスと日本の共通しているところかなと思いますね。

      petit h(プティ アッシュ)とは?

      petit hは、シルクやレザー、ファブリック、磁器、クリスタル、貴金属細工……といったアトリエに眠る多種多様な素材を用い、再創造とサステナビリティの精神のもと、新たな視点からものづくりを行うアトリエ。エルメスの各メチエの熟練職人たちが、petit hのクリエイティブディレクター、ゴドフロワ・ド・ヴィリユーのもとに集まったアーティストやデザイナーと協力しあい、機能的で独創性あるオブジェを生み出します。

      Shinsuke Kawahara

      河原シンスケ

      1980年代初頭よりパリ在住のマルチアーティスト。ブリュッセルELEVEN STEENSでの個展のほか、パリ造幣局博物館、パリ工芸美術館、京都の西本願寺伝道院など数々の展覧会で作品を発表。エルメスとはカレをはじめとして、香水《ローズ イケバナ》リミテッドボトルデザイン、2023年大阪中之島美術館にて開催された「エルメスの petit h - プティ アッシュ」のセノグラフィーも手掛けた。モチーフである「ウサギ」は、これまでの活動での重要な主題となっている。

      Photo: K .Kurigami

      TOPにもどる

      端末を縦にしてご覧ください