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STORY
フォーブルの
遊歩者
Menehould de Bazelaire du Chatelle
ムヌー・ドゥ・バズレール・ドゥ・シャテル
エルメスの文化遺産部門ディレクター
今月のテーマは、「フラヌール」(そぞろ歩き)です。エルメスの文化遺産部門ディレクターであるムヌー・ドゥ・バズレール・ドゥ・シャテルは好奇心の赴くままに、あっちに行ったりこっちに来たりとパリのフォーブル・サントノーレ店をそぞろ歩きします。フラヌールをとおして2世紀以上前のエミール・エルメス・コレクションを紐解き、みなさんを新しい世界へとお連れいたします!
フラヌールが文化保存?
――伝承という仕事。
メゾンの文化遺産の保護が私たちの仕事です。保護とはすなわち伝承ですね。伝承は、少し魔法がかった空間が広がるパリのフォーブル・サントノーレ店にあるエミール・エルメス・コレクションが並ぶミュゼ(美術館)でおこなわれています。ここはエルメスの魂を探究したいと願う者たちが訪れ、3代目社長のエミール・エルメスをはじめ、先人たちの足跡をフラヌールできる場所でもあるのです。ときおり私が店をフラヌールすることも仕事の一部と言えるでしょう。ただ散策しているようにしか見えないのかもしれませんが(笑)。
――待ち侘びる過去。
エミール・エルメスは1871年に生まれました。いくつかの証言によると、彼は馬の鞭を届ける手伝いで裕福な邸宅を巡っていたといわれています。お客さまはチップをはずんでくれたそうで、彼はその心づけをすぐに骨董品へと換えていきました。そんな骨董品蒐集が人生を開きました。ここに収められた過去のものは、今も私たちの訪れを待ち侘びてくれているのです。
――店のあちこちには。
フォーブルの店内にはアルフレッド・ド・ドルーのための誇らしい空間があります。この壁面に掛かった版画はすべて彼によるもので、私たちの歴史そのものです。そして、バッグや手帳カバー、小さな皮革製品に気をとられることなく、ゆっくりと見上げてみると、巨大なキャンバスを目にします。この絵画はイギリスの田園での狐狩りを描いています。猟犬に取り囲まれた狐は、ずる賢そうな笑顔でその場から逃れたことを私たちに伝えています。また、陶器の柱には、狩猟服を着た小さな少年が描かれています。彼はミュゼでもよく見かけるある人物に似ていますね。それはナポレオン3世の息子であるルルと呼ばれていた皇太子です。彼はクリスマスに素敵なおもちゃをもらいました。初のペダル式の乗り物で、バロトロープと呼ばれる特許を取っており、未来的なおもちゃだったのです。
――伝承は作品づくりにも。
エミール・エルメスは1951年末にこの世を去りますが、まだ健在の頃、画家の藤田嗣治氏をミュゼに招き入れました。ミュゼにあったルルの馬の三輪車は彼の作品に加わることになりましたよ。それから、エルメスのスカーフ、カレのデザインに関わった日本人デザイナーのひとりである野村大輔が、アイデアを求めてミュゼを訪ねてきました。彼はここでのフラヌールで着想を得て、ある種ロボットのような三輪馬車をスカーフに描きました。19世紀のルルの三輪車の子孫とも言える、21世紀の三輪馬車です。本当にとても素敵なカレができあがりました。エミール・コレクションは、インスピレーションの源が無限に広がる場所なのです。
Menehould de Bazelaire du Chatelle
ムヌー・ドゥ・バズレール・ドゥ・シャテル
エルメスの文化遺産部門ディレクター。パリのソルボンヌ大学で文学、ラテン語、ギリシャ語、歴史を学ぶ。パリとニューヨークのリセでの教職、パリのルーヴル美術館デッサン部門での4年間の勤務を経て、1986年にエミール・エルメス・コレクションの担当として入社。