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ドローイングから、
オブジェへ
エルメスの創造の一片を
紐解きます
エルメスでは、毎年のように世界各地のクリエイターたちにより、約200点ものドローイングが描かれます。それらのドローイングは、長い時間をかけ、エルメス・ステュディオ・デッサンによりオブジェとしての命が吹き込まれます。そんな、ステュディオ・デッサンのディレクターを2019年から務めるのがコジマ・バルザン。一枚のドローイングから、いかにしてエルメスのオブジェが生み出されるかの創造の一片を聞いてみましょう。
――ステュディオ・デッサンとは?
ステュディオ・デッサンは、パリでエルメスのグラフィック・クリエーションを担う部門です。世界各地のクリエイターたちから届いた作品をもとに、彼らとの対話を重ねることで、エルメスのオブジェに用いられるデザインを生み出します。私たちのチームにはグラフィックデザイナーやアートディレクターといった専門家がいて、ひとつひとつの作品をオブジェに落とし込むための、自在な再解釈を行っているのです。また、1937年から蓄積してきた約8,000点にも及ぶデザインを保存、修復したアーカイブも管理しています。これらをチームのメンバーが再び目にすることで、新たなインスピレーションを得ているのです。
――エルメスの魔法のツール。
今年の年間テーマは、「ドローイング −描く−」です。さまざまな角度から「描く」ということを探求するドローイングの年となります。「年間テーマ」は、1987年のエルメス創業150周年の折に、当時5代目社長だったジャン=ルイ・デュマが、「花火」をテーマにパリの人々とともに祝い、150個のオブジェをつくり出したことに始まります。以来、毎年テーマを考え、提案することで私たち自身のクリエーションを刺激しつづけてきたのです。同じことの繰り返しを好まないエルメスにとって、この「年間テーマ」こそが、創造のための魔法のツールとなっているのです。
―― ひとつのオブジェができるまで。
カレのデザインは構成がとても緻密です。四角形のカレには4つの角があり、それぞれが異なる表情でなくてはなりません。というのも、首に巻くたびに見える部分が違うので、異なるストーリーを表現する必要があるのです。通常、クリエイターとの最初の打ち合わせから店頭に並ぶまで、早くても2年ほどかかります。私たちは、一方的な指示を出すことはせず、オープンな姿勢で、自由な創造性を大切にします。デザイナーたちが時間をかけて、意見を交わしながら仕事をしてくれることを望み、15年、20年、25年……、なかには60年ものお付き合いになる方もいるのです。
――デザインが語る物語。
カレのデザインはたくさんのオブジェに表現されています。たとえば、エマイユのブレスレットや、サーフボード、バッグなど、あらゆるものに展開されます。それは常に、職人との対話を重ねながら、再解釈、再構築されることでそれぞれのオブジェにふさわしい固有のデザインになるのです。デザインは誰が手掛けたものなのか? デザインが語る物語を知ること――それは密かな喜びとなるのです。
――感動もオブジェに。
カレ《ブケ・フィナル》の誕生には、ちょっとしたエピソードがあります。イギリス人イラストレイター、ケイティー・スコットが友人である日本のフラワーアーティスト、東信さんと対談を行いました。東さんは、2024年に銀座メゾンエルメスをパリの街角のお花屋さんにしたときに小さなブーケを用意したのですが、ケイティーはそのブーケの作品に呼応する大きな花束を描いたのです。そのデザインを見た瞬間に私たちは感激し、カレ《ブケ・フィナル》の誕生へと繋がりました。
――日本文化との化学反応。
私の最初の仕事のひとつは、銀座メゾンエルメスの5周年を祝うために小さなコレクションを企画することでした。日本とドローイングの間には、何か特別なものがありますし、フランス文化と日本文化の間にも、心に響く何ともいえない化学反応を感じます。料理、庭、木工、工芸などに宿る人の“手”による仕事、職人技への情熱こそが、私たちと日本を強く結びつけるのだと思います。

エルメスのクリエーション部門で約20年間働いたのち、2019年には、クリエーションを司り、ドローイングひとつひとつにオブジェとしての命を吹き込むだけでなく、その情報発信と共有も行う場、ステュディオ・デッサン(Studio Dessins)のディレクターとなる。