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STORY

シアターの表現者

Jaco Van Dormael &
Michèle Anne De Mey

ジャコ・ヴァン・ドルマル &
ミシェル・アンヌ・ドゥ・メイ

ベルギー出身のデュオ
(映画監督・演出家/振付家・ダンサー)

10月のテーマは「シアター」。このたび、銀座メゾンのプライベートシネマ「ル・ステュディオ」で上映される映画は、ベルギー出身のデュオ、ジャコ・ヴァン・ドルマルとミシェル・アンヌ・ドゥ・メイによってつくられました。鞄やスカーフならいざ知らず、エルメスとの映画づくりとは一体どのようなものだったのでしょうか? その制作の裏側を本人たちにこっそり聞いてみましょう。

ファンタジーの世界へようこそ。

――映画制作のはじまり。

ジャコ エルメスからは、「軽やかさ」というテーマについて考えてほしいといわれました。すぐに共感できたのは、無重力感や地表から空に飛び立つことを想像できたからです。エルメスの製品を使うのではない形で考えてほしいというリクエストがありましたが、私たちのほうからエルメスの手袋を使うことを提案しました。暑い国から手袋が役に立つ寒い国へと渡っていく『渡り手袋の飛翔』という物語をつくりたいと。また、鞄を主人公にオペラをつくりたいとも。これは鞄たちが歌う『四つの鞄のオペラ』という物語になりました。

――つくられた映画について。

ジャコ 映画『LA FABRIQUE DE LA LÉGÈRETÉ―軽やかさの工房(英題 On the Wings of Hermès)』は、実験的であると同時に古典的でもあります。サイレント映画にみられる固定カメラを使っています。シンプルなアイデアにもとづいた物語で、とても短く、ほとんど展開はありません。ほぼ静止画ですが、音楽や動き、ナレーション、照明の演出によって話が進んでいきます。イリュージョンのような作品であり、視覚的な俳句のようなものかもしれません。

――ふたりの映画論。

ジャコ ほかの舞台芸術と同じように映画もまたコレクティブアートです。一緒に働く仲間たちとつくり、誰もが何らかの貢献をすることで作品に厚みが生まれます。ストーリーの中に入れたいと思う要素そのものは漠然としたイメージです。でも、板や釘、接着剤やペンキを使い始めるとアイデアが具体化されます。ここに生身の俳優やダンサーが絡んでくるとより複雑になります。

ミシェル・アンヌ 一番難しいのはこの“遊び”に参加するにふさわしい人やチームを見つけることです。チームで制作を行う際には、仲間と一緒に遊ぶのが得意な人を見つけなければなりません。長い年月をかけて自分たちと合う人を探し集めチームを育ててきました。

ジャコ そして、すべては書くことからはじまります。何度でも書き直します。どんな作家でも最後の最後にアイデアがうまくいったときだけ自分には脚本家としての才能があると感じるのです。美を探し求めるプロセスとは、多かれ少なかれ書くことと同じです。美しくなるまで何度でもやり直す頑固さを持っています。映画を一からつくっていく中で、美を見つけるには頑固でなければなりません。

――ペガサスの存在。

ジャコ 私たちは、まずとりとめのないメモや漠然としたアイデアといった断片からスタートします。これがある時点に達すると、ある疑問が湧いてきます。すべてをひとつにまとめるのは何か? と。この作品では、すべてをまとめる存在がペガサスでした。翼のある馬は「軽やかさ」そのものです。それぞれが自分だけの「軽やかさ」の形を見つけたペガサスとその子どもたちを起用したのはそういうわけです。

――映画の細かいところ。

ミシェル・アンヌ 映画の中では『だまし絵』のシーンが一番気に入っています。

振り付け感が強い巻き戻しの動きを使った『無重力』も好きです。逆回転して見せることになる動きをつくりながら、舞台に描かれた馬の絵をダンサーの動きによって消し、同時に強調する方法を考えました。巻き戻しの動きをつくり出すことは振り付けを考える際によく使うアプローチのひとつです。

ジャコ このシーンの前半では時間が前に進み、音声が巻き戻しになっています。半分まで来ると反転し、動きが逆回転になり音声が前に進んでいきます。

子どもの頃、私は自分の手をじっと見ていました。手を特別な存在だと感じていた私にとって、ミニチュアを使ったシーンで手を主人公にするのは自然なことでした。大きなセットを組み、手やものを人の身体に見立てて演じさせましたね。この作品とエルメス、そしてエルメスの職人たちとを深い絆で繋いだのは手なのです。

私たちがつくった映画はスクリーン上で終わりますが、観客のみなさんはその断片を持ち帰り、再構成することで、その人だけの映画となるのです。

LA FABRIQUE DE LA LÉGÈRETÉ

軽やかさの工房

エルメスが企画し、ジャコ・ヴァン・ドルマル & ミシェル・アンヌ・ドゥ・メイにより制作・上演された2022年のエルメスシアター『LA FABRIQUE DE LA LÉGÈRETÉ ― 軽やかさの工房』。この作品が2023年11月新たに自主制作映画となり、いよいよ日本でもお披露目されることになりました。

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映画『LA FABRIQUE DE LA LÉGÈRETÉ―軽やかさの工房』ティザー映像

「シアター」がテーマである10月は、「ル・ステュディオ」にて、映画本編を舞台裏映像とともに特別上映いたします。スクリーンの奥行きある映像で手とオブジェの織り成すスペクタクルに没入するひととき。
ランタンエルメス特別プログラムの詳細は今月のMONTHLY EVENTよりご確認ください。

エルメスの公式サイトでは映画全編を特別公開中です。
この機会にお楽しみください。

Jaco Van Dormael & Michèle Anne De Mey

ジャコ・ヴァン・ドルマル & ミシェル・アンヌ・ドゥ・メイ

ベルギー出身のデュオ、映画監督であり演出家のジャコ・ヴァン・ドルマルと、振付家・ダンサーのミシェル・アンヌ・ドゥ・メイ。2022年、劇場型スペクタクル『LA FABRIQUE DE LA LÉGÈRETÉ―軽やかさの工房(英題 On the Wings of Hermès)』を制作し世界各地で公演中。その後、同名の映画をつくり出す。
Photo: Julien Lambert

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