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STORY

フォーブルのシェフ

Élisabeth
Larquetoux-Thiry

エリザベス・ラルクトゥー=ティリー

エルメスのシェフ

8月のテーマは「グルマン」。パリのフォーブル・サントノーレのメゾンには、美食を求めるみなさんのお腹を満たしてくれるシェフがいるんです。知られざるエルメスのシェフの仕事とは一体何か? 私たちの料理人であるエリザベス・ラルクトゥー=ティリーにたっぷりと話を聞いてみましょう!

料理は驚き!

――シェフの矜持。

メゾンで働いてもうすぐ20年が経つのですが、今でもまるで初めて厨房に入った日のような気持ちがしています。不思議ですね(笑)。フォーブルで、エルメスファミリーとそのゲストにランチやときにはディナーをご提供します。メゾンの家庭的な雰囲気の中でフランスの家庭料理をつくることもあれば、ゲストの国籍を踏まえてフランス料理をベースに少しアレンジします。和食であれば天ぷらをつくることもあるんですよ。常に国籍には気を配り、食事をされる方に寄り添う料理を出すのが私の仕事です。

――シェフの日常。

私は朝8時頃に家を出て、出身地であるブルターニュ地方の魚を扱う大好きな魚屋さん『Yebisu』に寄ります。鮮度の高い活け締めの魚を手に入れるためです。それからマルシェにも寄ります。だいたい、植物性と動物性の食材を半々の割合で調達するのですが、いつも自転車で回っているんですよ。前のカゴと、後ろにはふたつサコッシュをつけているので、食材もたくさん入ります。

――その日のメニュー。

食材を仕入れ、フォーブル24番地に着いたら、右腕となってくれるスザナに声をかけます。私は食材を買いながらその日のメニューを組み立てているのですが、手に入れた食材を広げながら、スタッフたちにメニューの説明を行います。もうひとりのスタッフのリタは、食器やグラスを選び、テーブルセッティングのための必要なすべてを用意してくれるのです。料理ができあがったら、ワインがあれば一緒にサーブします。午後の時間は、次の日のデザートをつくりを行います。つくるものによっては24時間寝かせる必要があるものもありますから。

――料理の真髄。

料理の目的のひとつは、幸せを生み出すことです。ヘルシーかつ、食事を口にした人たちを幸せにできるのは素晴らしいこと。バランスはもちろんですが、“驚き”がないとそれは叶いません。たとえば、ラズベリーを口にしたときでさえサプライズが必要なのです。もし、バジルの中に予想外の味を感じたとしたら、それは驚きにつながります。どんな料理でも、常に驚きを創造することが大切です。

――心の中の料理人を解放。

私のレシピを喜んでお届けします。レシピを試してくださるときには、最初に、ぜひみなさんの心の奥底に眠る「料理人の心」を解放してください。

ランタンエルメスのためにエリザベスが特別に考案した、ゆずが香る タルト・オー・シトロン。

ここに、いちじくの葉を使ったアイスクリームのレシピがあるとします。もし、いちじくの葉を手に入れることができなくても、「ああ、どうしよう、このレシピはつくれない」と諦めないでくださいね。いちじくの葉でつくれるなら、フェンネルの茎でも、あるいはミントなど、シンプルに考えて、より一般的な食材でもうまくいくかもしれませんから。そうすることで、あなたの中に住む料理人は、自分だけのアイスクリームをつくり出してくれることでしょう。

――味覚。

料理の味は大切です。ですが、あなた自身の味覚も大切です。もし、あなたの味覚が3口目でつまらなくなり、飽きてしまうと、無意識にその印象が残り、結果的にレシピはまあまあだなと思うかもしれません。私がまず意識するのは、サクサクとしたクリスピー感、とろけ具合、しっとりとしたやわらかさです。それから、温かさと冷たさがやってきて、さらに、塩味、甘み、苦み、酸味、自然な甘さといった味の違いが楽しめるかどうか。これらを少しずつ組み合わせることができると、いわば3本の柱が揃い、しっかりとした基礎の味が生み出されます。

――視覚。

料理を美しくするのは料理人の大切な役目です。美しい器に盛り付けられた料理は、食欲を引き出します。〈パシフォリア〉のシリーズには花柄が描かれています。ソースを添えることもできますが、飾り付けはよりシンプルにするのがよいでしょう。イエローが綺麗な〈ソレイユ・ドゥ・エルメス〉には、あえて、より豊かな色彩を足してみたり、異なる白を添えればイエローに映えて綺麗でしょう。

――日本のすき焼き。

それはそうと、私は日本の文化と秩序に魅力を感じています。ちょっとした秘密を打ち明けましょうか。実は、かつてレストランで食べたとてつもなく美味しかったすき焼きの味で、私は夫の胃袋を掴んだんですよ。そして、彼はすき焼きの美味しさの虜になり、私たちは30年間の円満な夫婦生活を送っています。

――料理という魔法。

メゾンで働くようになり、私の仕事に協力してくれる人を探していました。それは、ひとりの日本人の紳士でした。初めて見かけたのはマルシェで、物静かな様子で野菜を選び、人々が彼に挨拶する様子を見かけたのです。そのすべてが気になり、彼に話しかけました。コーヒーを1杯、2杯、3杯と飲み、それから、そのまま実に10年間、ともに働くことになったのです。その彼は栗原 平シェフといいます。彼は私の知らない調理法をたくさん見せてくれました。食材の味わい、または香りをかぎ、私とはまるで異なるやり方で、調理を行うのです。結果、「同じ食材、調味料でも、まったく異なる料理になる」と私たちは知ることができました。これこそ人生における魔法なのだと思いましたね。

Élisabeth
Larquetoux-Thiry

エリザベス・ラルクトゥー=ティリー

エルメスのシェフ。パリの料理家一家に生まれる。祖母の故郷でもあるブルターニュ地方の島に2軒のレストランをオープン。2004年からはパリのフォーブルでシェフを務める。

エルメスのシェフによる
とっておきのレシピ集

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