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STORY

エルメスには
哲学者がいる

Adrien Barrot

エイドリアン・バロー

エルメスの哲学者

12月のテーマは「マジックオレンジボックス」です。そう、まさしく、スカーフのカレや帽子にブーツ、それからもちろんバッグといったエルメスのすべてのオブジェをさまざまなカタチとなって包み込む、魔法のオレンジボックスについて紐解きます。20年間、哲学の教鞭を執ったのち、エルメスのクリエイティブ&イメージ部門のアドバイザーとして、“言葉”を紡ぎ出してきた哲学者、エイドリアン・バローに話を聞きます。

オレンジボックスの魔法とは?

――謎めくオレンジボックス。

あらためてオレンジボックスというものについて考えてみると、何かとても謎めいたものを感じます。それはオレンジという色がそうさせるのだと気がつきました。エルメスの包装の歴史を少し振り返れば、非常に美しく、エレガントで、シックでありながら、もともとはかなり控えめな色合いの紙やボール紙からはじまったことがわかります。

それらは、ベージュ、グレージュ、マロン、ホワイトといったものでした。しかし、このオレンジは、舞台の劇的な展開や雷鳴のように突然現れました。いったいなぜか? その頃は第二次世界大戦の余波の中にあり、紙の供給がままならず、これまでの色の紙を手に入れることが難しくなってしまったのです。製造業者はこう言いました。「残っているのは、オレンジ色だけ」と。それは、エルメスにとって好機が訪れた瞬間でした。メゾンの個性を主張し、私たちが誰であるかを示す機会を得たのですから。

――オレンジとボックスの効能。

オレンジ色の持つ、その輝き、エナジー、遊び心、大胆さは、メゾンの持つ、賢明で控えめといった「エレガンスとは気づかれないこと」という考えとは、ともすると相反するものに感じるかもしれません。ですが、それらはすべてメゾンに当てはまるものなのです。さらに興味深いのは、これまでこのオレンジボックスは定型に収まったことがなく、オブジェの型と同じ数だけボックスの種類が存在するという事実です。びっくりしますよね。画一性への抵抗であり、均一性を好まない、エルメスの本能とも言えるのです。

――ボルデュックが結ぶもの。

ボルデュック(リボン)がオレンジボックスと年間テーマをひとつに結びます。私は毎年、年間テーマを創造する一端を担っているのですが、ボルデュックにはその年のテーマが印字されていますので、ボルデュックをかけることでボックスに魂(スピリット)が宿ります。

この魂はエルメスそのものであり、まさしく2024年は、「フォーブルの魂」という年間テーマで、その魂を祝ってきた一年でした。フォーブル24番地とは、ある意味すべてがはじまった場所であり、このボックスも単なる箱ではなく、24(ヴァンキャトル)もただの店ではありません。すなわち、この24番地の魂は、エルメスの魂です。そして、オレンジボックスの中にもエルメスの魂が宿るのです。

――銀座メゾンエルメスとオレンジボックスのマジック。

銀座メゾンエルメスについて思いを巡らせてみました。それはいままで考えたことがなかったのですが、レンゾ・ピアノが手掛けたこの建物は、正方形で構成された、四角い大きな縦型の箱で、完全にオレンジというわけではないのですが、まるでオレンジボックス同様の“メゾンのシグネチャー”で、その暗示のひとつと言えるのです。

夕暮れどきの建物の表情、その外観は、昼間のそれとはすっかり変化をとげ、街を灯すひとつのオレンジ色のランタンとなるのです。それはまるでオレンジボックスのように。これは、エルメスの親しき友である日本という国で育まれてきた、光の芸術へのオマージュだと思います。日本の人々は、本当に素晴らしい紙のランタンをつくります。このランタンは、まぎれもなく街を照らす活気に満ちたやさしい魔法、壮麗なマジックなのです。

Adrien Barrot

エイドリアン・バロー

20年間、哲学の教鞭を執ったのちに2011年にエルメスに入社。クリエイティブ&イメージ部門のアドバイザーとして、毎年のエルメスのテーマについて考えを巡らし、組み立てる作業を先導する。メゾンが発行する『エルメスの世界』の編集、特に言葉にまつわる監修も担当。

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