ポケットパークのような
ウィンドウディスプレイ
川俣正 アーティスト
2021年11月から翌年2月にかけて、銀座メゾンエルメスのウィンドウディスプレイを手掛ける機会をいただきました。角材や樹木でツリーハット(小屋)とネスト(巣)をつくり、床には枯葉を敷き、ウィンドウの外側にも樹木を設置して、深まる秋に葉を落とした木立の間から店の中に入っていくようなイメージを表現しました。ウィンドウの外にあのようにはみ出すディスプレイはエルメスにとって初めての試みだったようです。
“銀ブラ”という言葉があるように、銀座という街自体が目的なくぶらぶらと歩いて楽しいエリアですし、道筋には並木があり、ビルが立ち並ぶ路地の合間にぽっかりと小さな公園があったりします。そんなストリートの延長上にふらりと立ち寄りたくなる、木々に囲まれたポケットパークのような店があってもいいんじゃないかという発想からあのようなインスタレーションになりました。エルメスは敷居が高いと思われがちですが、街を散策するうちに何気なくするっと迷い込めるような仕掛けにしたかったのです。
真夜中の銀座の街に
灯る詩的な世界
ウィンドウディスプレイの施工は閉店後、深夜におこなうのですが、そのとき気づいたのは、真夜中の銀座を徘徊するのも面白いなぁということ。道路工事の人、タクシー運転手、営業を終えた店の従業員、或いは早朝の開店準備をする人、いろんな人が動いている。そんな闇夜の街角に灯りを灯して浮かび上がるウィンドウは、異世界を覗き込みたくなるような、詩的な世界を人々に提供しているようです。
数寄屋橋交差点の角近くに立つロケーションからも、銀座という街全体を引き締める存在です。あの場所が多くの人にとって銀ブラの起点、つまりはフラヌールの始まりになっているのではないでしょうか。そして僕に限らずさまざまな方が手掛けられたウィンドウディスプレイが、そのときどきに、思いがけない未知の世界へのフラヌールをいざなう装置になっていると思います。
Tadashi Kawamata
川俣正
アーティスト。2007年よりパリ在住。公共空間に木材を張り巡らせるなど大規模なインスタレーション作品を多く手掛け、数々の現代美術国際展に参加。2021〜22年には銀座メゾンエルメスのウィンドウディスプレイを制作した。
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