SPECIAL CONTENTS

ウィンドウディスプレイ
の中のエルメス劇場

銀座メゾンエルメスのまるで劇場のようなウィンドウディスプレイ制作の127回目を手がけたのは、フランス人アーティストのフランソワーズ・ペトロヴィッチ。年間テーマの「フォーブルの魂」をもとに、銀座でしか味わうことのできないウィンドウの中の物語はどのようにクリエイションされたのか? それでは、エルメス劇場の舞台裏をちょっと覗いてみましょうか。

2つの大きなウィンドウに、16の小さなウィンドウ。すべてのウィンドウを覗いていくことでひとつのストーリーが完成します。フランソワーズ・ペトロヴィッチがつくったのは、本当の劇場のような動きのあるウィンドウディスプレイでした。

――「フォーブルの魂」の空間化。

フォーブル24番地のエルメスは、パリでは誰もが知っている存在です。改装から100年を迎えるにあたり、1920年代当時を振り返ってみたのですが、アートシーンでいうとシュールレアリスムの動きがあった時代でした。私はシュールレアリスムからすぐに、共存、コラージュ、断片といったイメージを連想し、フォーブルにまつわるさまざまな断片をコラージュのように重なり合わせ共存させ、さらに動きを加えることで、多くの物語が重なり合うようなものをつくりたいと考えました。

Photo: Satoshi Asakawa / Courtesy of Hermès Japon

――私の出発点。

私の場合は、デッサンが作品の原動力になっています。発想の源となるのは、毎日の生活の小さな瞬間を切り取ったカルネ(手帳)です。自然や人物、動物といったものをデッサンし、そこに描かれたものがその後、形や大きさを変えて、それがたとえば今回のウィンドウディスプレイのドローイングのヒントになったりするわけです。デッサンのライン、痕跡がすべての作品の出発点にあります。

Photo: Satoshi Asakawa / Courtesy of Hermès Japon

――ウィンドウの中。

当初は紙の劇場のようなものをつくりたいと思っていました。私の作品の象徴的な要素を取り入れよう、つまりドローイングを飾るといいのではないかと。どこか機械的でシンプルに絵が動くという表現もしてみたいと考えました。それぞれのドローイングが交差する動きを与え、その交錯により未知のものがつくり出せるように。その際に、エルメスのオブジェも遊び心をもって使えればと思い、ウィンドウの中心には馬のドローイングと実際の馬具を据えることにしました。

Photo: Satoshi Asakawa / Courtesy of Hermès Japon

描いた馬が動きながら、実際にディスプレイしたサンダルに蹄がピタリとハマるようにもしました。手袋のドローイングもウィンドウにありますが、手袋にしてはやけに大きい絵です。

Photo: Satoshi Asakawa / Courtesy of Hermès Japon

小さなウィンドウのほうは、ドローイングと、その形を通して設置されたオブジェが見えるようにすることで、近くに寄って見ることを促します。まるで鍵穴から覗き込んでいるかのような視点になるのです。そこにはストーリーが込められています。ですが同時に、見る人が物語をつくり直すこともでき、その人だけのとっておきの物語ともなり得るのです。

Photo: Satoshi Asakawa / Courtesy of Hermès Japon

* 2024年8月末でディスプレイは終了しました。

Françoise Pétrovitch

フランソワーズ・ペトロヴィッチ

アーティスト。1964年、パリ生まれ。ヴェルヌイユ=シュル=アヴルを拠点に活動。陶芸、ガラス、淡彩画、絵画、版画、映像など多様なメディアを用いて作品制作を行う。2023年、銀座メゾンエルメスの「フォーラム」でのグループ展「エマイユと身体」展に参加。2024年、ウィンドウディスプレイ『シューズ・オン・マイ・フット』を制作。
Photo: Hervé Plumet

TOPにもどる

端末を縦にしてご覧ください