建築家視点で読み解く
銀座メゾンエルメスの魅力

o+h (大西麻貴+百田有希)

建築家

遠くから眺めてみる

大西 路上から眺めると、銀座メゾンのたたずまいが他のビルと比べてすごく特別なものに見えます。ガラスは物質なのに、まるで霧や光の積層が立ち上がっているかのような「現象性」を感じさせるのが素晴らしいなぁって。

百田 朝、昼、夜でビルの表情がガラリと変わるのは、銀座の街の印象と似ています。昼間の銀座は街路樹など緑のイメージが強いけれど、夜になると室内の灯りが外側に漏れ出し、街全体が輝き始める。その変化を銀座メゾンのビルそのものが表現しているようです。

近づいてよーく見る

大西 ビルの角がアールを描いていますよね。このアールを形づくるためにガラスブロックのモジュールを四分割したサイズのブロックが使われています。それは必要から導き出された結果なのに、同時に装飾的な効果をも発揮しているのが本当に素敵で、感動します。

百田 ふつう外装材の端にはスチールの枠を付けたりして“留め”を作ると思うのですが、ここではガラスを斜めにカットしたまま切りっぱなしで終わっています。そのおかげでビル全体の透明感やシャープさが保たれています。ブロックの中にある金具までチラッと見せる遊び心、なんてエレガントでおしゃれなんだろう!

大西 ガラスブロックの内側に銀色の塗料が見えます。普通は白などあたりまえの色で済ませそうですが、この色がビル全体のキラキラとした効果を増幅させているみたい。

百田 わざわざオリジナルでシルバーにするというところに、工業製品であるはずのガラスブロックがまるで「工芸品」のように扱われていることがわかります。ガラスの表面の揺らぎがひとつひとつ違うのもまさに手仕事そのものですしね。

ヴォイドの効果

大西 新宮晋さんの彫刻がある部分はヴォイド(何もない空間)になっていて、建物の領域を左右に振り分ける役目を果たしていますね。吹き抜けってドラマティックですし、ヴォイドをもうけることでガラスの面積が増えて、室内がより明るくなります。

百田 地下道からエスカレーターを上がってきた人が街へ歩き出そうとするとき、この吹き抜けに吊り下がる動く彫刻を見上げて、驚きや感動が生まれるでしょう。このビルで働く人や買い物に来る人たちだけでなく、街ゆく人みんなに等しく豊かな経験や美しい景色を与えている。つまり街に貢献しているんだなぁと感じます。

大西 そのヴォイドの裏側がビルの内部では左右の棟をつなぐ部分に当たりますが、ここだけはガラスブロックがないんです。ちょっと狭まったこのスペースを通り抜けた先にはまたガラスに囲まれた売り場が広がっている。

百田 そう、この幅の狭いスペースが間に挟まることで内部空間に抑揚が生まれている。ヴォイドはビルの内と外、両方に効果を与えているんですね。

光も人間も回遊するビル

百田 各フロアをつなぐ階段がガラスブロックの壁ぎわに設置されているのも意図的でしょうね。一日を通して光が動き、人が上へ下へと移動する。流れがある空間をここに集約させることで、入ってくる光の印象が無限に変化して見えるはずです。

大西 地下1階から4階にはお店が、その上にはオフィスが、トップにはアートギャラリーと映画館があるビルなんて、本当に珍しいと思います。各フロアに違った機能があり、いろんな人が自由に動き回る回遊性を感じさせます。

百田 だからこそ、フラヌールしたくなる魅力的な場所があちこちにある。ずっと未来まで残ってほしい、宝物のような建築です。

o+h (Maki Onishi + Yuki Hyakuda)

o+h (大西麻貴+百田有希)

建築家ユニット。o+hは1983年生まれの大西麻貴と1982年生まれの百田有希が共同主宰する建築設計事務所。2023年日本建築学会賞(作品)受賞。エルメスとはビューティ製品のポップアップストア「Hermès in Colors」設計などで縁がある。

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