見えていないものを
      見えるようにする

      Keiko Takemiya

      竹宮惠子

      私は漫画家です。主にマンガのコマ割りの中でたくさんのドローイングをしてきました。画業は50年を超えます。故ジャン=ルイ・デュマ氏のご希望でエルメスの社史をマンガ化することになったとき、お引き受けしたのがエルメスとのお付き合いの始まりです。その仕事は、以前に経験したことがないような驚くべきもので、たくさんの発見があり、エルメスが職人の手によって生み出されるドローイングをいかに大事にしているかを知りました。

      いつから描いていらっしゃいますか?

      物心がつく頃にはもう、描いていました。真っ白い紙を見ると、その中に浮かんでくるまだ見ぬものをあらわしたくてうずうずしました。

      あなたにとって「ドローイング - 描く -」とは?

      「見えていないものを見えるようにすること」です。

      最近描いたものの中で、何か特別なエピソードがあれば教えてください。

      月面で人が暮らしているシーンを絵にしました。背景には「地球の出」を、そして見たことのない乗り物や、星が見えない漆黒の夜空も大切な要素として描きました。月面からは空がどんなふうに見えるのか、科学的な情報も調べています。これもまた「まだ見ぬものを見えるようにする」ことですよね。

      エルメスの今年のテーマは「ドローイング - 描く -」です。なぜ、ドローイングがエルメスのDNAに深く根付いているとお考えですか?

      エルメスのものづくりに関わる方は皆さん、それぞれの仕事を通じて「見えないものを見えるようにする」ことを実行していらっしゃると思います。マンガ『エルメスの道』を読んでいただければおわかりになると思いますが、エルメスは創業時から他社とはちょっと違うオリジナルな考え方で、さまざまなオブジェを創り出してきました。実際に描いたり言葉を綴ったりすることだけが「ドローイング」ではないのです。まだ見えない空気の中に浮かぶ新たな何かを、その手、その思いで形にすること。それがすべて「ドローイング」なのだと思います。そのようなオリジナリティがエルメスにはずっと根付いているのですね。

      銀座メゾンエルメスはあなたにとってどんな存在ですか?

      銀座メゾンエルメスは芸術的な存在です。故デュマ氏も、このメゾンの誕生秘話を『エルメスの道』に描かれることを望んだと思います。「新しいものを恐れずにこの世に生み出す」という精神がこの建物にも反映されているのですね。暮れなずむ夕刻には、ガラスブロックに覆われたビルが明かりの灯ったランタンのように輝き、本当に美しいです。銀座という日本を代表する「見るべき街」にランタン・エルメスがあることを誇らしく思います。

      © Hermès 2025 / Keiko TAKEMIYA

      Keiko Takemiya

      竹宮惠子

      1950年徳島市生まれ。趣味は乗馬。1968年『リンゴの罪』で漫画家デビュー。以後、SF、同性愛、音楽、歴史などを題材に多彩な執筆活動を続ける。主な作品に『ファラオの墓』『天馬の血族』など。2000年〜2020年京都精華大学で教授に就任、うち14〜18年は学長を務めた。2014年紫綬褒章受賞。1997年にエルメス社史を漫画化した『エルメスの道』を、2021年には新たに63ページの描き下ろしを加えた『新版 エルメスの道』を上梓。

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