馬具を描いて

エルメスの原点、「ドローイング」。

エルメスにおける「ドローイング」の歴史を紐解くと、最初のオブジェである「馬具」に立ち返ります。馬に装着する数本からなる革のストラップは機能的な道具でありながら、美しい工芸品でもあり、馬の力強さ、駆歩(ギャロップ)、所作とともに私たちを魅了し続けてきました。そんな馬の体の仕組みを研究し、その骨格や筋肉、構造を描こうと試みたドローイングは数多く存在しますが、エミール・エルメス・コレクションに収蔵されているのが、この一枚の絵です。馬のエスプリ、威厳を守りながらも、馬力をどのように制御し活用できるのか? これこそが馬具に求められるパラドックスです。

19世紀になると、より軽やかで快適な馬車が求められます。それは馬との新しい関係が生まれた時代でもありました。エルメスの馬具職人の卓抜した技により、車体をひく小さな馬、あるいは大きなポニーがサラブレッドさながらに馬車をひきます。尻繋(しりがい)は尾の風格を高め、頸環(くびわ)に通された手綱は馬の首筋をすっと伸ばします。馬そのものの美しさを引き立てるフルオーダーの馬具は、機能性とデザイン性が融合した、時代を先取りしたオブジェであったといえるでしょう。

1912年 エルメス兄弟社製品カタログ

今日、馬具用品のすべてはお店では手に入りませんが、そのドローイングは創作の源であり、絶えず再解釈されています。2021年には、儀式用馬具から発想を得た《グラン・トゥラララ》、1962年に発表され「永遠のスカーフ」と呼ばれる《グラン・アパラ》は、近年には当時の配色を活かしたデザインで再現されました。

このように、最初は馬、そして馬具が描かれるモチーフとなり、そして馬具のドローイングそのものがヘリテージのように、メゾンのさまざまなものづくりを繋いでいったのです。

カレ《グラン・トゥラララ》、デザイン:ヴィルジニー・ジャマン、2021年

カレ 90《グラン・アパラ》、デザイン:ジャック・ユデル、2023年

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