MONTHLY EVENT
映画で読み解く「パリ」
特別なシアターデー
2024年10月14日(月・祝)
プライベートシネマ「ル・ステュディオ」は、銀座メゾンエルメス10階にある小さな映画館です。パリの街角にある名画座のような小さな映画館を銀座の街に届けたいという5代目のジャン=ルイ・デュマの思いにより、2001年、銀座メゾンエルメスのオープン時に誕生しました。週末の上映会を通じて、これまで150本以上の映画をご紹介しました。毎年エルメスの年間テーマに沿ってプログラムが組まれています。
今月はパリでつながる複数のプログラムをお届けする特別月間です。10月14日はランタンエルメスのための特別な一日として、パリを舞台とした映画の上映会と「ル・ステュディオ」プログラム・ディレクターのアレキサンドル・ティケニスのトークセッションを開催します。映画愛好家ティケニスが語る映画の中の「パリ」とは。トークセッションに先んじて、エルメスと映画についてのお話をお届けします。
――「ル・ステュディオ」での映画の選び方とは?
エルメスの年間テーマに沿うように、フィクション、ドキュメンタリー、アーティストフィルム、あるいは実験映画などから自由に選んでいきます。ただし、そのテーマを文字どおり反映させるか、それとも美的視点、哲学的視点、映画的視点から解釈を試みるかを、時間をかけて考察することを大切にしています。プログラムを普遍的なものとするためにも、異なる国、時代、スタイルの映画を集めるのが私の考え方です。映画の選定は、多くの映画を観て、昔観た映画を思い出すことからはじまります。そして新しい映画を発見する喜びが伴います。「ル・ステュディオ」で鑑賞される方々にまだ知られていない珠玉の作品を見つけ出すことは、胸躍る私の仕事なのです。
――今月のプログラムについて。
年間テーマの「フォーブルの魂」に合わせ、パリの街に焦点をあてた2本です。1本目の『パリところどころ』は、6人のヌーヴェルヴァーグを代表するフランスの監督たちによって描かれた短編オムニバス作品ゆえに、さまざまなパリの風景が紹介されます。異なる地区やアパルトマンに住む多種多様なパリジャン、パリジェンヌが登場するだけでなく1960年代初頭のヌーヴェルヴァーグに関する証言としても興味深いものとなっています。6編の中でのお気に入りは、カメラの長回しがリアリティ感を強調するジャン・ルーシュの『北駅』と、パリでもっとも有名な広場をエリック・ロメールのユーモラスな視点で描いた『エトワール広場』です。
ヌーヴェルヴァーグのリアリズムとは対照的に、ウディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』は、長年フランスの首都に魅了されてきたアメリカ人の視点によるパリの描写です。ある人にとっては象徴的なモニュメントや高級レストランであり、ウディ・アレンを含めたほかの人たちにとってはロマンティックで文化的な豊かさが魅力となっています。ノスタルジーを抱き、パリのステレオタイプなイメージに騙されることなく、自身の40年前の作品『カイロの紫のバラ』のように、彼の夢を我々に共有してくれるのです。
――小さな映画館の宝庫、パリ。
シネマトグラフ(映画装置)は、1895 年にパリで生まれ、それ以来、パリは映画の首都としての役割を果たしています。人口あたりの映画館数がもっとも多く、映画愛好家がとりわけ活発です。1920年代の前衛運動と呼応するように、彼らが組織するシネクラブを迎え入れる小さな映画館がつくられていきます。戦後、この活動は批評活動やシネマテーク(映画保存機関)の影響もあり、さらに盛り上がり、多くの独立系映画館が登場します。芸術系映画を上映するアール・エ・エッセイ映画館として認められると、映画の多様性を維持するために、国とパリ市によって支援されるので、幸いなことに、今も多くの小さな映画館が残っているのです。
――銀座メゾンエルメスの小さな映画館。
10階に映画館、そして、そのすぐ下にはギャラリーがあり、ここは建物の知的好奇心の核であり、根っこであり、そしてインスピレーションを見つけることができる場所だと思います。ヨーロッパでは映画館やギャラリーがたいてい地上近くにあるのに対し、ここではエレベーターに乗り、頂上へと向かうことは、ちょっとした旅のはじまりであり、新たな発見を約束するような感覚なのです。
――日本と「シアター」。
日本映画といえば、学生の頃に黒澤明の『生きる』から『どですかでん』といったところまで、すべてを観ました。黒澤作品は、溝口健二や小津安二郎の作品とともに当時のパリでは簡単に観ることができたんです。吉村公三郎の『夜の河』は、絹の染物屋が舞台となっていて、「絹」はエルメスを思い起こさせました。建築やデザインに興味のあるヨーロッパの人々にとって、日本の映画を観ることは、常に視覚的な楽しみでもあるのです。
2018年に「ル・ステュディオ」 でのイベントのあと、電車で東京郊外の青梅まで行きました。街の映画館はずいぶん前から閉館していましたが、街中に手描きのポスターを掲示していた看板絵師がいました。ポスターには、ハリウッドのクラシック映画のスターたちの顔がかすかに東洋人風に描かれていました。残念ながらもうないと聞きましたが、街の素朴なファサードに映画の歴史の痕跡を発見した感動は今でも覚えています。
10月4日11時より予約を開始します。
INFORMATION
2024年10月14日(月・祝)
11:00〜
映画『パリところどころ(原題 Paris vu par...)』上映会
1965年/フランス/97分/カラー/ブルーレイ上映
14:00〜
アレキサンドル・ティケニス トークセッション
日本語通訳付(約75分)
17:00〜
映画『ミッドナイト・イン・パリ(原題 Midnight in Paris)』上映会
2011年/スペイン・アメリカ/94分/カラー/DCP上映
※上映はすべて日本語字幕付。
※予約制/入場無料。
開催場所:
銀座メゾンエルメス10階「ル・ステュディオ」
東京都中央区銀座5‐4‐1
03-3569-3300 (10:00~18:00)
※エルメス銀座店の営業は 11:00~19:00
Alexandre Tsékénis
アレキサンドル・ティケニス
ル・ステュディオ プログラム・ディレクター。1960年、パリ生まれ、パリ在住のギリシャ人。建築家・舞台美術家として、映画やコンテンポラリー・ダンスの舞台美術を制作。専門は映画史。パリ国立映画学校やパリ第3大学などで教鞭をとったのちにパリ5区にあるインディペンデント映画館「Le Grand Action」を共宰していた。